IoT・ネットワークセキュリティ
背景と課題
近年,スマートホーム,スマート工場,インフラ監視など,様々な領域でIoTデバイスが急速に普及しています.しかし,これらの多くはCPUやメモリといった計算リソースが制限されており,暗号化やリアルタイムの監視ソフトウェアといった十分なセキュリティ機能を搭載できないため,サイバー攻撃の格好の標的となっています.
また,攻撃の手法も日々巧妙化しており,既知の攻撃パターンを照合する従来のシグネチャ型の侵入検知システムや,個々の通信端末を独立して監視する従来型の機械学習モデルでは,未知のゼロデイ攻撃や,多数 of 端末が協調して動作する複雑なボットネット攻撃を効果的かつリアルタイムに検知することが困難になっています.
当研究室のアプローチ
当研究室では,これらの課題に対して,AI技術,暗号技術,ハードウェアセキュリティを組み合わせた多角的なアプローチで研究を展開しています.
1. グラフニューラルネットワーク(GNN)を用いた高度な侵入検知と説明性
通信ネットワークにおける端末間の接続関係やトラフィックのフローをグラフ構造としてモデリングし,グラフニューラルネットワークを適用することで,ネットワーク全体で協調して行われるボットネットなどの悪意ある活動を高精度に検出します. さらに,モデルを軽量化するサンプリング手法の開発や,説明可能AI(XAI)を応用し,検知された攻撃の根本原因をセキュリティ管理者に論理的に提示できるシステムの構築を目指しています.
2. トラフィック難読化によるプライバシーと機密情報の保護
IoTデバイスが送信するパケットのサイズやタイミングなどの特徴は,たとえ暗号化されていても,トラフィック解析攻撃によってどのような機器がいつ動作しているかを攻撃者に特定されてしまう危険性があります.当研究室では,トラフィックに意図的なノイズや遅延,ダミーパケットを挿入し,安全かつ低遅延で通信を難読化する技術の開発を行っています.
3. TEE(信頼実行環境)を活用したセキュアなシステム監査
IoTデバイスがマルウェア等に乗っ取られた際,OSに記録されたセキュリティログそのものが改ざんされてしまう問題があります.そこで,プロセッサ内にハードウェアレベルで隔離された安全な領域である信頼実行環境であるTEEを利用し,OSのカーネルが侵害された場合でも,安全かつ確実にプロセスやファイルの操作履歴を保護しつつ収集・送信する監査システムを研究しています.
4. 飛行アドホックネットワーク(FANET)等における協調的防御
ドローンなどの移動体間で構成される飛行アドホックネットワークであるFANETなどにおいて,パケットの不正転送や中間者攻撃を行う悪意あるノードからネットワークを守るため,ノード間の行動履歴を蓄積して信頼度を動的に評価し,信頼できる通信経路を自律的に構築するセキュリティ協調防御アルゴリズムの研究を行っています.
5. 連合学習(Federated Learning)を用いたIoT向けゼロデイ攻撃検知
ゼロデイ攻撃と呼ばれる未知のサイバー攻撃に対してIoT機器を守るため,個々のデバイスが収集した通信データを外部と直接共有することなく,ネットワーク全体で協調して検知モデルを訓練する連合学習技術を研究しています.特に,各IoTノードがネットワーク上の通信から異常情報を自律的に抽出してローカルで学習を行い,それらのモデルパラメータのみを効率的に統合することで,極めて少ない通信オーバーヘッドと高い検知精度を両立する高度なゼロデイ攻撃検知フレームワークを開発・実証しています.
6. アクティブプロービングを用いた非侵入型侵入検知
多くの既存IoTネットワークでは,監視システムを導入するための計算リソースや機器追加コストが障壁となります.そこで,通信データを直接キャプチャしてスニフィングする代わりに,対象機器へ能動的にICMPなどのプローブパケットを送信し,その応答に含まれるIPv4 IdentificationフィールドであるIPIDの増分を解析することで,機器が送信したパケット数を外部から動的に推定する手法を確立しました.この推定値を One-Class SVM 等の機械学習モデルに入力し,DoS攻撃やARPスプーフィングなどの異常トラフィックや侵入を検知する,軽量かつ容易に導入可能なセキュリティ手法を提案・実証し,高い評価を得ています.