エッジ・フォグ計算基盤と次世代ネットワーク制御
背景と課題
モバイルデータの爆発的な増加や,スマートシティ,自動運転などの超低遅延アプリケーションの登場により,すべてのデータを遠隔のデータセンターへ送信して処理する集中型クラウドのみの構成では,回線の逼迫や重大な遅延が課題となっています.これを解決するため,ユーザ端末の物理的近傍に分散的な計算資源を配置するエッジ・フォグコンピューティングが注目されています.
しかし,多種多様なIoT機器がそれぞれWi-FiやBluetooth、ZigBeeといった異なる規格で複雑に接続するヘテロジニアス(異種混在)環境において,ネットワーク帯域やCPUなどの資源をいかに最適配分するか,不安定な無線通信の上でいかに効率的に仮想的なネットワーク網である仮想ネットワーク埋め込み(VNE: Virtual Network Embedding)を構築するか,また,GPS電波が届かない屋内や地下でいかにスマートに端末の位置を測位するかなど,次世代の社会基盤を支える通信・計算インフラにはクリアすべき多次元的な課題が存在します.
当研究室のアプローチ
当研究室では,数理最適化,AI技術,および無線計測技術を組み合わせ,次世代通信・計算インフラを効率化する総合的な研究開発を進めています.
1. フォグ・MECにおけるタスクオフロードとゲートウェイ配置の最適化
エッジ・フォグ環境において,通信遅延の低減とインフラ設備全体の省電力化を両立するための最適設計手法を開発しています. 特にMEC(モバイルエッジコンピューティング)環境においては,端末およびサーバーの電力消費を含むシステム全体の総消費エネルギー量を最小化するために,メタヒューリスティクス手法である遺伝的アルゴリズム(GA: Genetic Algorithm)を用いて,どの処理をどのエッジサーバーにどのタイミングでタスクをオフロード転送するかを高度に最適化する手法を開発しています.また,ハードウェアコストを抑えつつ遅延と信頼性を両立するため,タブー探索を用いたフォグノード配置手法や,データ分散配置型のオフロード手法も提案しています.
2. 異種混在無線環境におけるVNEと日和見ルーティングの高度化
1つの物理ネットワーク上に,異なるQoS要求を持つ複数の論理ネットワークを動的に割り当てる仮想ネットワーク埋め込み(VNE)技術を研究しています. 無線リンク特有の品質変動やパケットロスによる遅延をモデルに組み込み,ネットワーク全体の稼働効率と要求受け入れ率を最大化するマッピングアルゴリズムや,ノード信頼性に基づくセキュアなVNE手法を確立しました.また,異種網環境で通信の同報性を活かす日和見ルーティング(Opportunistic Routing)において,時空間的負荷分散や,収容トラフィック最大化のためのシステム設計などを研究しています.
3. 時系列AI(Transformer)を用いたトラフィック分解能化と次世代プロトコル制御
SNMP等のプロトコルを通じて収集される低頻度で大雑把なトラフィックログから,深層学習モデルであるTransformerの時系列補完能力を利用し,バースト的なパケットの急増やイベントの発生といった高精度な高頻度トラフィック変動を高度に復元するトラフィック分解能化技術を提案しています.また,次世代インターネットプロトコルであるSRv6(Segment Routing over IPv6)を用いたマルチホーム環境での経路短縮・通信資源適正化といった次世代プロトコル制御も研究しています.
4. Wi-Fi RTT と BLE フィンガープリントによる高精度屋内測位技術
GPS電波の届かないオフィスビルや商業施設などの屋内環境において,端末の位置情報を高精度に把握するための測位技術を研究しています. 可動アクセスポイントと機械学習を利用したWi-Fi RTT測位精度向上の研究や,BLE FingerprintingとWi-Fi RTT測位における基準点(Reference Point)配置の適正化による精度向上の研究を進めています.これらは電波強度を示すRSSIと電波往復遅延時間を示すRTTのハイブリッド測定モデルを用い,かつ実測に必要な基準点の設置数を最小化しつつ誤差メートル以下の測位精度を実現する実用的なアルゴリズムです.