ネットワークプロトコル関連

無線アドホックネットワークにおけるルーチング(経路制御)

前述のように,無線アドホックネットワークでは,各端末が送信元・宛先端末としての役割だけでなく,データを宛先端末へ中継・転送する役割も担っています.また,各端末が自律分散的に動作することや端末の移動が発生することなどから,インターネット等で一般的なルーチング(経路制御)プロトコルを用いた場合,通信環境が大きく異なることから性能の劣化が不可避となっています.そのため,無線アドホックネットワークでは,その通信特性に合わせたルーチングプロトコルが必要であり,現在までに様々な方式が検討されています.それらは大きく以下の様に三種類に分類することができます.

  • プロアクティブルーチング(テーブル駆動形ルーチング)
  • リアクティブルーチング(オンデマンド形ルーチング)
  • ハイブリッドルーチング

プロアクティブルーチングでは,実際の通信が行われる以前に前もって端末間の経路を作成しておくのに対して,リアクティブルーチングでは,通信要求が発生してから経路の探索・確立を行います.ハイブリッドルーチングでは,プロアクティブルーチングとリアクティブルーチングの利点を組み合わせ,その時々でより有効な経路を構築するよう様々な制御が実施されています.

一方,これらのルーチングプロトコルの最大の欠点として,特定の経路を継続的に利用するということがあります.通信環境の変化が少なく,安定的な通信が可能な場合には,経路の継続利用に付随する問題は生じにくいのですが,無線アドホックネットワークのように不安定な通信環境では,必ずしも最適な経路が利用されることとはならず,通信性能の劣化や通信効率の低下の一要因となってしまいます.

そこで,当研究室では,新しいルーチングの枠組みである”Opportunistic Routing”に着目し,研究を行っています.Opportunistic Routingとは,特定の経路に依存しないルーチングであり,通常のルーチングが一対一通信であるユニキャストを用いているのに対し,一対多通信であるブロードキャストを用いてデータ転送を行っています.そのため,一度の中継制御によって複数の中継端末へデータを転送することが可能となり,より通信状態の良い端末や宛先までの通信成功率が高い端末等を積極的に利用することができます.Opportunistic Routingでは,ブロードキャストによって転送されたデータを受信した中継端末が,宛先までの距離や通信成功率などの様々なメトリックに基づき,自律的に転送の適性度を判断してその後の転送制御を実施,または中止します.これにより,転送適性度の低い端末による不要な中継制御を抑制し,通信負荷の低減を図っています.また,ブロードキャスト通信による中継制御によって,複数経路を利用するマルチパス通信も同時に行われることとなるため,送信元・宛先端末間での通信成功率を飛躍的に向上させることができます.

当研究室では,Opportunistic Routingの柔軟な適応性を利用して無線アドホックネットワークで効率的な通信を実現するため,以下のような検討を行っています.

  • 中継適性度判断に必要なメトリックの収集方法
  • 通信環境に応じた中継適性度判断の検討
  • ブロードキャストによる通信負荷増加を抑制する手法
  • Opportunistic Routingによるネットワーク主導型通信の実現

また,企業との共同研究の中で,Opportunistic Routingを実際のネットワークへ適応するための技術についての検討も行っています.

センサネットワークにおける省電力ルーチング

無線センサネットワークでは,センシング領域に配置された複数のセンサ端末からシンクノードと呼ばれる情報集約を行う装置まで,マルチホップ通信を利用したデータ送信が行われています.また,センサ端末は一般的に小型電池などの限られた電力源によって駆動されており,その交換等が物理的・コスト的に困難である場合が多く想定されます.そのため,無線センサネットワークでの通信では,可能な限り各端末の消費電力を抑制し,ネットワークを長期間維持することが求められます.

従来より,無線センサネットワークでの通信方式として様々なルーチングプロトコルやデータ転送方式などが考えられてきていますが,より綿密な制御を行うためには,適応的に通信環境に即した経路や通信タイミングを設定する必要があります.そこで本研究室では,蟻コロニー最適化(ACO:Ant Colony Optimization)における最適化の動作をルーチングに応用する手法について検討を行っています.一般的にACOは,送信元から宛先までの最短経路を探索する際に用いられていますが,研究室で実施している検討ではその最適化のための動作を応用し,端末の消費・残留電力が時々刻々と変化するネットワークにおいて,適応的に経路選択を行うルーチングプロトコルの提案を行っています.